3クラブ 管理栄養士 鼎談 後編:育成年代の食事管理

 

新型コロナウイルス感染症の世界的な感染拡大の影響で、スポーツ界はもちろん、あらゆる場面で活動制限や行動自粛が引き続き行われています。
さらに今年の夏は世界的に記録的な気温の上昇が見られることもあり、以前より日々の体調管理と栄養管理の重要性が増しています。
今回は大阪・舞洲に拠点を持つ、3つのプロスポーツチームに携わる管理栄養士の皆さまにご協力いただき、スポーツにおける栄養摂取のポイントについて、リモート鼎談を実施いたしました。この模様を前半、後半と2回に分けてお届けします。

 

後編のテーマは「育成年代の食事管理」です。

(2020/7/29 リモート収録)
→前編「プロアスリートの食事管理」

 


 

好き嫌いを減らすには育成年代の食習慣が大事

 

 

--それぞれ皆さん担当されている年代も違いますが、食事の好き嫌いは目立ちますか?

 

中村奈央さん/セレッソ大阪(以下中村) 年代が低いほど、苦手なものが多いのかなと思います。苦手なものというと、想像通りかもしれませんが、野菜が苦手という選手はやはりいますね。

 

--以前に、最近の選手は魚が苦手と聞いたことがあります。

 

中村 魚と肉を比べると、肉が好きという選手が圧倒的に多いですね。魚は骨があって食べにくいという部分も影響しているのかなと思います。

 

河南こころさん/オリックス・バファローズ(以下河南) プロ野球選手でも好き嫌いは多くて、野菜が苦手な選手は多いかなという感じを受けています。魚か肉かで言えば、やはり肉が人気で、魚はなかなか手を付けてもらえないという感じです(笑)。

 

--プロの選手で好き嫌いが多いというのは、アマチュア時代の過ごし方が影響しているのでしょうか?

 

河南 それはどうなんでしょう。強豪チームであれば、栄養士さんによるセミナーなどもあるはずなので、多分知識としては持っていると思います。結局のところ、それを実践するかしないかは、その選手の意識の問題なのかなと思っています。

 

--山本さんは大阪エヴェッサ以外も含めて、同じことを感じますか?

 

山本尚代さん/大阪エヴェッサ(以下山本) 好き嫌いは個人によるのだと思いますが、実感として、男性を対象とした場合、魚より肉の方が摂取量を含めて、しっかりと食べてもらえるように感じます。一人暮らしをしていて、自炊を頑張っている方だと、魚は調理が面倒とか、何をしたらいいかわからないというところでも、魚を食べる機会が少ないのかなと感じることはあります。

 

--嫌いなものというのは、大人になっても食べられないものですか?

 

河南 逆に大人になってしまうと食習慣は変えにくいと思うので、子どものうちに改善しておいた方がいいと思います。

 

--具体的にどんなことをすればいいでしょう?

 

河南 子どもに対しては、美味しく楽しんで食べてもらうということが大事です。野菜が苦手であれば、家庭菜園などで自分が育てたものを食べるという風にすると、「自分が育てた」という思いも生まれるので、美味しく食べることができるようになると思います。私がサポートしているのは全員大人なので、苦手なものを無理やり食べさせるのではなく、同じ栄養素を含む、また違う食材を勧めたりしています。

 

--子ども対策ということでいえば、野菜をカレーに入れるというのは定番ですよね?

 

河南 もちろんそれもありますが、形を変えるという狙いで、細かく切っておみそ汁に入れてもらうのもいいですね。実際にオリックス・バファローズでは、寮の調理担当の方にご協力いただいて、そういった取り組みをしてもらったこともあります。

 

中村 私は保護者の方に、選手が嫌いな野菜は刻んでハンバーグやつくねに混ぜる、あるいは主菜の肉や魚などと一緒に炒めるという方法も提案しています。河南さんが仰るように、自分で育てるというのもいいと思います。小中学生であれば、根気よく食卓に出し続けることも大事ですね。

 

--となると保護者は大変ですね?

 

中村 でも小中学生くらいの頃に苦手な食べ物にチャレンジする機会を設けないと高校生ぐらいで食の嗜好を変えるのは難しいと思います。子どもと一緒に料理を作るというのも、食事を楽しむという意味で良いと思います。

 

山本 私もお二人と同じ意見です。
河南さんの自分で育てるというのは、面白いと思いました。
保護者の方へのアプローチという意味では、中村さんの仰った通りで、根気よく出し続けることは大事です。また一緒に料理をすることで、苦手な食べ物でも自分の作ったごはんだからと嬉しそうに食べる子供は多いです。
あとはどうして嫌いかを子どもに直接聞いてみて、例えば「苦いのが嫌」ということだったら、それを味付けや食材の組み合わせでカバーするような工夫もいいのだと思います。私も、自分で作らせるという提案は、保護者の方にすることがあります。それも、子どもに食事が楽しいと思わせるのが目的です。

 

 

 

子どもの栄養摂取は 一度に多量ではなく、間食を取り入れて無理なく

 

 

--アカデミーについて、栄養の摂り方を含めて、保護者の方が誤解していると感じることはありますか?

 

中村奈央さん/セレッソ大阪(以下中村) セレッソのアカデミーの保護者の方は非常に熱心です。
子どもがプロを目指しているからかもしれませんが、ご自身でも結構勉強されていることが多いです。それでも、ごくまれですが、「たくさん食べさせなければいけない」、「練習後の補食は必ず食べさせなければいけない」と思い込まれていらっしゃるな、と感じることがあります。
セレッソ大阪のアカデミーは、舞洲をはじめとして大阪市内各所に練習場がありますが、中には自宅から1時間半や2時間かけて通っている選手もいます。そうした選手の場合、練習後の夕食まで時間が空きすぎてしまいますので、練習後、家に帰って夕食を食べるまでの時間を勘案して、補食は摂ってほしいですね。
疲労回復の上では、練習後に補食を摂ることは重要ですが、家に帰って夕食を食べられないのであれば、補食の量やアイテムを工夫してもいいと思います。

 

--例えば、少年野球の世界では、チーム全員に3リットルタッパーを購入させ、同じ量を食べさせるといった取り組みも見られるようですが、どう思いますか?

 

河南こころさん/オリックス・バファローズ(以下河南) 子どもの成長速度には個人差があって、早熟な子がいれば、そうでない子もいます。当然、体格差は大きく出てきます。
それに対して、一律で同じ食事量を摂らせるというのは、疑問を感じます。
小柄な子どもにとっては3リットルのタッパーに詰め込まれたご飯を食べるというのは、苦痛でしかないと思います。やはり子どもの体格に合わせ、個人にあった量を提示するのがベストだと思います。

 

--バランスよく食べることは必要だが、一度に量を食べる必要はないということですか?

 

河南 そうです。例えば小食の子どもは、一度にたくさんの量は食べられないでしょうから、それであれば小分けにして、ちょこちょこ食べてもらった方がいいと思います。効率よく身体を大きくしようと思うのであれば、まとめ食いよりも、こまめにエネルギーを摂ってもらった方がいいので、私はなるべく食事と食事の間に間食を入れることを勧めています。

 

--間食というと「ご飯が食べられなくなる」と嫌がる保護者もいそうですね。

 

河南 「間食=おやつ(お菓子)」ではなく、食事を補う「補食」ととらえてもらい、エネルギーや何かしらの栄養素が摂れるものを選ぶことが間食のポイントです。スポーツをやっている子どもは、一般の子どもよりもエネルギーも栄養素も必要になるので、やはり効率よくエネルギーや栄養素を摂取していくための間食はあってもいいと思います。

 

--回数には理想がありますか?

 

河南 朝食と昼食の間、昼食と夕食の間、そして夜食という感じで、1日に5食から6食をイメージしてもらうのがいいと思います。

 

--山本さんが、スポーツをやっている子どもに勧めたい食事は何ですか?

 

山本尚代さん/大阪エヴェッサ(以下山本) そうした子どもたちと接している中で、エネルギーというか全体的な食事量が足りていない子どもが多いのかなという感じは受けることがあります。成長期ということもありますが、ジュニア世代の子どもは、競技によっては毎日長い時間の練習があったりするのですが、運動量に食事量が見合っていないかなと感じることはあります。私も皆さんと同意見で、補食や間食を上手に使って、栄養を確保してほしいと思います。

 

--練習の合間の補食という意味では、フルーツとかゼリーというイメージがあります。

 

山本 練習の合間の時間にもよります。十分に時間が空いているようであれば、フルーツとかゼリーよりは、もう少し食事に近いイメ―ジでもいいと思いますが、脂質を抑えるなどの工夫は必要になります。結局は練習時間や休憩時間の状況に応じてということになります。

 

 

 

管理栄養士おすすめの補食メニュー

 

 

--補食のおすすめメニューはありますか?

 

河南 私は焼きおにぎりです。
炊きあがったご飯に昆布だしを混ぜておにぎりにして、それをフライパンで焼くだけですが、これは「食欲がなくても食べられる」と選手もよく食べてくれます。一度に20~30個ほど作り、球場のロッカールームに置いておくのですが、冷めてもおいしく食べられるので、選手は練習や試合の合間に、自分のタイミングで食べています。

 

中村 私は補食を提供することはありませんが、保護者の方に提案した情報のひとつにバナナのパンケーキがあります。
選手はおにぎりやバナナなどの補食をもって練習や試合に来ることが多いのですが、選手がバナナを食べ飽きたという悩みを持っていた保護者への提案でした。バナナのパンケーキをスティック状に切って小分けに包んでおくと、食べやすいですよ。比較的、手軽に作れるメニューなので、保護者の方にも喜んでいただけるのかなと思います。

 

山本 私は舞洲プロジェクトを通じて知り合った桃谷順天館という企業様とタイアップして、アスリートのための補食というメニュー開発をさせてもらっています。ブリトーというトルティーヤの皮で食材を包んだメニューをメインに進めており、具材をアスリート向けに工夫しております。たとえば運動前に必要な糖質たっぷりの具にしたり、糖質やたんぱく質のバランスを考えたものにしたりなどしています。

 

--最後に夏バテ防止として効果的なことを教えてください。

 

中村 暑さが厳しくなるとと食欲がわかないかもしれませんが、きちんと朝食、昼食、夕食と1日3回の食事を食べてほしいですね。水分補給というと飲み物を飲むイメージかもしれませんが、私たち人間は食べ物からも水分補給をしているので、食事を抜かないことを意識してほしいです。

 

山本 夏の旬野菜は夏バテ防止や水分補給できるものが多いです。
食べる時は、旬の野菜を大事にしてほしいですね。中村さんの仰るように欠食しないということが大事です。食べないでいると、胃腸が食べないことに慣れてしまったり、胃液だけが分泌され胃粘膜が荒れることでむかむかなど不快感を感じて余計に食べられなくなるという悪循環に陥ってしまいます。何でもいいから、少しでもいいから食べて欲しいです。水分が不足しがちな季節ですから、私がメニューを組み立てる時は、スープをつけて、そこにお酢を少し加えたり、冷汁にして食べやすくするなどの工夫をしています。

 

河南 舞洲は暑いので、練習中に水分をとりすぎてお腹がちゃぽちゃぽになり、食欲が落ちてしまい、ご飯が食べられないという選手がいました。実際に体重も減ってきていたのですが、水を飲むなとは言えないですし、どうしようと考えている中で、「アイススラリー」を見つけました。これはフローズンドリンクのようなものですが、球団にお願いしてフローズンマシンを買ってもらい、それを練習前や試合前に飲んでもらうことで、身体の中から冷やして体温上昇を抑え、暑い中でもパフォーマンスが低下しないようにしました。ご家庭では、濃いめのスポーツドリンクを凍らせたものと液体のスポーツドリンクを一緒にミキサーにかけるとアイススラリーのような形状になるので、練習前や試合前に飲んでおいて、体温上昇を抑えるという方法もありじゃないかなと思います。

 

--今年はコロナ禍もあり、特に体温上昇や水分補給には注意して欲しいですね。皆さま、ありがとうございました。

 


 

▼今回ご登場いただいた3クラブの管理栄養士さんによる、補食レシピのご紹介
河南こころさん(オリックス・バフォローズ管理栄養士)の「焼きおにぎり
山本尚代さん(大阪エヴェッサ管理栄養士)の「アスリートブリト―

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