舞洲プロジェクト 特別企画 3クラブ社長鼎談(後編)

 

 

大阪・舞洲に拠点を持つ、3つのプロスポーツチームの社長に各スポーツへの影響、今後への課題などをお聞きする社長鼎談の第3回目をお届けします。今回のテーマはプロスポーツの意義と役割」です。

 

(6月3日オンラインにて収録)

 


 

安井 直樹 ヒューマンプランニング株式会社(大阪エヴェッサ)代表取締役

湊 通夫  オリックス野球クラブ株式会社(オリックス・バファローズ)代表取締役社長

森島 寛晃 株式会社セレッソ大阪(セレッソ大阪)代表取締役社長

 


 

 

 

Theme3:プロスポーツの意義と役割

観戦スタイルの多様化がもたらすプロクラブの変化

 

--我々ファンは今回の外出自粛期間に、「スポーツを観戦できることは幸せなことである」と実感することができました。スポーツを提供する立場である皆さんは、これからどういった意識でクラブを運営していくべきだと感じましたか?

 

安井 正直にお答えすると、これは私たちも悩んでいるところです。格好悪い言い方をすると、これから行われるプロ野球やJリーグを見ながら、そのいいところを取っていきたいと考えています。

 

湊 先ほど森島社長も仰っていましたが、段階を踏んでいくことになると思います。ことによっては戻ることもあるのかもしれませんが、無観客からスタートして、少しお客さんを入れてという風に段階を踏みながら、少しずつ賑わいを取り戻していくことになります。しかし同時に一方では、今回のことをきっかけに、『オンラインで野球観戦を楽しむ』というスタイルが定着していくことになると思います。この新しい文化に対して、球団側がより積極的に工夫を凝らして楽しんでもらうことが必要になります。この二つの観戦スタイルを如何にして両立させていくのか、ということが重要になってくると思っています。これまでは『スタジアムに見に来ていただく』ということを1番に考えていましたが、これからはオンライン観戦の方に如何に楽しんでいただくかということを、球団が自チームのパフォーマンスをうまく使いながら打ち出していくことが重要だと思います。

 

森島 今までは当たり前のようにシーズンが始まり、サッカーを楽しんでいただいていたものが、クラブも試合を開催できない、選手たちもプレーできないという状況に陥っていました。しかし、ようやく再開できることになりました。選手たちは『優勝を目指して戦おう』というところで、改めて意識を統一し、気持ちを新たにしていると聞いています。我々も、先ほど湊社長が言われたように、新しい見方を提供しながら、サッカーというスポーツの力で、少しでも皆さんを元気づけたいと思います。その上でピッチにいる選手たちと、オンライン上にいるサポーターが気持ちを一つにして、試合終了のホイッスルが鳴るまで戦い続け、最後は一緒に喜びあえるようにしたいと思います。

 

 

 

プロスポーツ選手の意識変化

 

 

--こうした時期を経て、選手の意識は変わってきていますか?

 

湊 これは選手もファンも一緒だと思いますが、まずは適切な距離を保ちながらの生活を送る必要があります。勇気を出して言えば、罹患することをゼロにすることはできません。どんなに注意していても感染するリスクは、あらゆるところに転がっていると言えます。しかしその可能性を低くするためには、防疫の意識を持ち続けるしかありません。罹患する可能性ということで言えば、選手もファンも同じことですが、選手はその影響力を考えれば、そうした意識をより強く見せていく必要はあると思います。そしてこの先、スタジアムにお客様をお迎えする段になれば、同じような意識をお客様にも求めていくことになります。公人としてのレベルでは、選手の方がより厳しさは求められる点はあると思いますが、それを球団としても後押ししていく必要はあると思います。

 

森島 今はグラウンドにも制限があり、グループ練習のみから、ようやく全体練習が始まったところです。そのため我々クラブスタッフも、選手にはあまり会うことはできておらず、私もチームスタッフを通じて選手の状況を聞いているような次第です。その選手たちですが、最初は室内でオンラインでつながりながらトレーニングという状況が新鮮だったのか、いい表情をしていました。しかし、毎日同じ練習を室内で繰り返すだけということを実感すると、ストレスが溜まっていったようです。今は、ようやく外でみんなと一緒にボールを蹴ることができるようになって、サッカーができる喜びをこれまで以上に感じているようだとスタッフからは報告を受けています。そう考えれば、より気持ちを高め、再開されるリーグ戦に臨んでくれるのではないかと期待しています。

サポーターの皆さんも楽しみにしているとは思いますので、その思いを受け止めて、プレーを見せてくれると思っています。

 

安井 バスケットは、現在オフシーズン中です。選手にも会っていませんし、気持ちが変わっていくのはまだまだこれからなのだと思いますね。

 

 

 

 

アマチュアスポーツへの支援

 

--様々なアマチュアスポーツが中止となり、目の前の目標を失った子どもたちに対してプロのスポーツクラブとして、どのような支援策が考えられますか?

 

安井 本当にアイデアレベルというか理想でしかありませんが、バスケットボールはアマチュアとプロの接触が規制されているわけではありませんので、エヴェッサの試合会場、舞洲で仮想インターハイがやれたらいいなと思っています。全国規模は難しいと思いますが、近畿大会レベルであっても、そういった大会を開催することが出来たらいいと思います。まだ本当に夢レベルの話であり、何か具体的な計画がある訳ではありませんが、そういった思いは持っています。

 

森島 インターハイや選手権という大きな目標が一つ消えるというのは、高校生にとっては非常に辛いことだと思います。先ほど安井社長が言われたように、大阪という地域の中だけであっても、何か大会的なものを提供してあげることはできないかと考えています。こういう時期だからこそ、高校生がみんなで目指せる場を用意してあげることができれば、少しは傷ついた心を癒すことができるのではないでしょうか。具体的にどのようにすればいいかはなかなか難しいですが、何かできることがあればとは思っています。

 

湊 プロ野球としての支援策ということであると、できることは限定的にならざるを得ません。プロ野球とは別の話として、大阪府と大阪市、吉村洋文知事と松井一郎市長たちが中心となって甲子園で高校野球の近畿大会を開催しようという動きがあることは、非常にいいことだと思います。これによって一つの目標が生まれるわけです。プロを目標にしている球児に対しては、その大きな目標を見失わないでほしいと思います。そして違うところに目標を置いていた球児は、そのために踏んできたステップを無駄にしないでほしいと思います。その目標に向かって努力したという事実は最大の財産ですし、そこで頑張ることができた人は、別の場所に行ってからも頑張ることができると思います。

 

--森島社長が今高校3年生だったら、どんな気持ちになると思いますか?

 

森島 サッカーをやっている高校生にとっての目標は、インターハイと冬に開催される選手権です。2つのうち1つが無くなるということになると、次の目標がものすごく遠くに感じられると思います。気持ちの部分が辛いと思います。厳しい練習に耐えることができるのは、それを発揮できる場があるからです。それがなくなってしまうと、気持ちを維持することが難しいだろうなと想像します。今の私から言えることは、先ほど湊社長も言われていたように、それまで頑張ったという事実を、別の力に変えてほしいということです。

 

--一般論として、プロアスリートを目指している高校生にとって、今回の大会の中止というのは、大きな影響があったと思いますか?

 

安井 私はプロ経験はありませんが、プレーはしていましたので、高校生のことを考えると辛い気持ちになります。バスケットであればこの時期はインターハイを目指している時期ですが、その目標が消えてしまうとなると、練習自体が辛く思えてくるだろうなと思います。インターハイで活躍すれば、大学のスカウトの目に留まりますので、そうしたアピールする機会が減ったという意味では、高校生にとっての影響は大きいと思います。

 

森島 スカウトの目が集まる場が一つなくなったことは事実ですから、違った形で活躍できる場があれば、選手たちがもう一度頑張ることのできるきっかけになるのかなと思います。

 

湊 今、規制が解除されたことで、高校球児が活動はできるようになってきています。当たり前のことですが、球児が活動しなければ、スカウトも活動はできません。ですから、今はスカウトが活動できるようになってきたともいえます。大会はなくなっても、プロが優秀なアマチュア選手を獲得するという本質に変わりはありません。ですから先ほど森島社長も仰っていましたが、自分の頑張りをどう見せるかということは、公式大会だけの話ではないと思います。

 

 

 

 

舞洲の力

 

--舞洲はプロ野球、Jリーグ、Bリーグという日本における3大プロスポーツのクラブが、それこそ徒歩圏内に拠点を置いている、日本でも稀有な場所です。この舞洲という場所で繋がった3クラブが、大阪のスポーツを元気にするという目標の下で、何か一緒にできることはありますか?

 

森島 あれほど近い環境にバスケットボール、野球、サッカーが集まっているというのは珍しいですよね。舞洲という地域の中で、サッカーを見に来た人がバスケットを見に行き、そして野球を見に行くといった行き来が生まれ、その中でそれぞれのファンに新しい発見があればいいなということは、普段から思っています。今までは近いようで、距離があったように思いますが、舞洲プロジェクトという場を使って、色々とやれることがあると思っています。まずは『舞洲に行けば、色々なスポーツがある』ということを発信していくことからスタートなのかなと思います。

 

安井 プロの3クラブというコンテンツは、大きな力を持っていると思います。当然かもしれませんが、プレーする場所も揃っています。これだけのインフラが整備されているという強みを、活かせないものかなとは思います。一番は、公式戦でなくても、舞洲で同じ日に試合を実施することができたらいいなと思います。ここで難しいのは、シーズンがうまいこと揃わないという事実です。しかし3つのコンテンツと3つのインフラがある唯一の島ですので、何とか同じ日に試合をやってみたいですね。

 

湊 今、両社長が仰ったとおりなのですが、舞洲というのは3大プロスポーツの活動拠点が集積する日本で唯一の場所なんですね。これを如何にして発展させていくかということが、我々に課せられた使命だと思います。できれば3つのチームのファンが重なり合うのが理想です。安井社長がご指摘されたようにシーズンが異なっているので、理論的には成り立つ話だと思います。そこでパスポートのようなもので、巧くファンを重なり合わせることができればいいと思います。

 

--湊社長が仰ったパスポートという考え方は如何ですか?

 

森島 セレッソ大阪のサポーターの特徴として、非常に思い入れが強いということがあります。例えば試合会場に来てくれたアイドルを、それをきっかけに応援したりということです。そういう意味では、それぞれに行き来しやすい環境が出来れば、ファンが重なり合うことは可能性があると思います。試合を揃えることは難しくても、選手を交流させることは可能なのではないでしょうか。舞洲プロジェクトのプロモーションで、ポスターなどではご一緒させていただいたことはありますが、もっと実際に交流するような機会ができれば、皆さんに親近感を持ってもらえるのではないでしょうか。

 

--安井社長にもお尋ねします。今、森島社長が仰った選手を交流させるというのは考え得る話だと思いますか?

 

安井 シーズン中に稼働させ難いといういう問題はあるかもしれませんが、両社長のお話を聞いていると、何かやり様はあるような気がします。

 

森島 選手にとっても、他競技のプロ選手と接することは、いい意味での刺激になると思います。

 

--3クラブは大阪のスポーツを盛り上げる上で核になる存在ですが、「大阪らしい」発信の仕方はありませんか?

 

森島 大阪市にこの3クラブの情報を、ぜひとも常時発信していただきたいですね(笑)。大阪は楽しい街ですので、何か面白いことが出来ればと思います。

昨年、セレッソは『楽しいこと』というテーマで、ファン感謝デーに、初めて吉本新喜劇をやらせていただいたのですが、そうした楽しいことを3クラブで一緒にできたらいいと思います。ホームタウン活動などを3クラブ合同でできれば、強くアピールすることができるような気がします。

 

--3クラブのOBの方が合同で、スポーツ講習会をやるようなことは可能でしょうか?

 

湊 もちろんできますし、OBであればシーズンとは無関係に稼働できる部分もあると思います。安井社長も仰っていましたが、以前、10月頃に集まって同じ日に集う会をやろうという企画はありました。舞洲で集まるという点においては、オリックスは選手が舞洲の住人ですので(笑)、いつでもOKです。

 

安井 大阪は「おもろいやん」というところでまとめることができると思いますので、何か面白いことを3クラブで集まってやれたらいいなと思います。そういうモチベーションは高い方ですので(笑)、ぜひ何かやってみたいですね。

 

 

 

 

3人の社長からのメッセージ

 

--これから暫くの間は『With コロナ』という生活を送る中で、野球とサッカーについては開幕、あるいは再開が近づいてきました。大阪にどんな元気を届けてくれますか?

 

湊 コロナウイルスによって、我々の行動は変わらざるを得なくなりました。そこでスポーツを通じて元気になっていただく、スポーツを見ていただき、『スポーツを見て良かったね』『元気が出たね』と言っていただくことが、我々の使命だと思っています。選手が一生懸命にプレーする姿を応援して元気になり、負けたときにはショボンとなり、といったことを繰り返す中で、トータルで元気になっていただければいいなと思います。ただ、プロチームとしては、コロナウイルスと共存しなければならない中で、今までと同じことをやっていてはいけないのだと思います。新しい工夫を組み合わせながら、お客様にオンとオフの両方のアプローチから野球を楽しんでいただくことを意識しながら、活動していきたいと思います。

 

森島 今、湊社長も言われたように、スポーツは見ている人に元気や感動を与えていけるものだと思います。そういった意味で、最初は皆さんもスタジアムへ行けませんが、サッカーが、野球が、バスケットボールが、見ている皆さんの活力になることこそが、やっている私たちが意識すべきであり、そのために何をすべきか考えながら、私はサッカーをしっかりと運営し、選手たちのプレーをお届けしたいと思います。今までにないシーズンがオープンする上で、オンラインもスポーツを楽しむ一つの形態になりますので、そうしたこともしっかりと学びながら、より皆さんに元気になっていただけるような発信をしていきたいと思っています。

 

--大阪エヴェッサは昨シーズン、非常に好調なところでシーズンが打ち切りとなってしまいましたが、来るシーズンはどのような意識で臨みたいと考えていますか?

 

安井 これまでのような観戦スタイルを続けることは難しいと思っています。それでもスポーツというのは、人々の生活に必要なものだと思いますし、見せ方の中にオンラインが加わるだけであり、やっていくことは、本質的には変わらないと思っています。色々とその時の状況に合わせて、最適な見方を提供していきたいとは思いますが、元気をお届けするというスポーツの本質は忘れることなく戦っていきたいと思っています。

 

--この先、3クラブが寄り添って、大阪を元気にしていただきたいと思っています。これからも3クラブを応援していきます。

 

湊 次は、ぜひオフラインでお会いしましょう(笑)

 

安井&森島 ぜひ、よろしくお願いします!

 

(了)

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安井 直樹(やすい・なおき)
1984年生まれ、大阪府出身。大阪エヴェッサ代表取締役。大阪エヴェッサのグループ会社でもあるヒューマンリソシア株式会社へ入社。2年後に大阪エヴェッサの運営会社であるヒューマンスポーツエンタテイメント株式会社(後のヒューマンプランニング株式会社)へ入社し、スポンサー営業を中心に経験を積んでチーフマネージャーへ。2016年
6月末より現職。自身も小学校時代からバスケ一筋で、高校時代には全国大会出場経験を持っている。

 


 

湊 通夫(みなと・みちお)
1962年10月20日生まれ、大阪府出身。早稲田大学出身。オリックス野球クラブ株式会社代表取締役社長オーナー代行。1987年オリエント・リース株式会社(現オリックス株式会社)入社。主にファイナンスやリースなどの金融業務に携わり、2011年にオリックス野球クラブ株式会社へ。事業本部長時代にはファンを拡大するために、ファンクラブ運用システムの大幅変更や、チアに変わる球界初のダンス&ヴォーカルユニットBsGirlsを誕生させるなど様々な改革を断行。また、球団拠点の舞洲移転に際しては先頭に立ってこれを推進した。2018年に代表取締役社長に就任。

 


 

森島 寛晃(もりしま・ひろあき)
1972年4月30日生まれ。広島県出身。セレッソ大阪では1991年から2008年まで活躍し、J1通算318試合出場94得点。日本一腰の低いJリーガーとして愛され、ミスターセレッソとしてチームを17年間牽引した。日本代表としても国際Aマッチ65試合出場12得点と活躍。2002年W杯のチュニジア戦でも1ゴールを挙げる。引退後はNHKなどでサッカー解説を務める傍ら、クラブアンバサダー、強化部担当として活躍。現在はセレッソ大阪の代表取締役社長を務める。

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