たくさんの引き出しをもつことがより良い仕事に繋がる ― 管理栄養士 河南こころさん ―

オリックス・バファローズ 管理栄養士 河南こころさん

 

結果が数字で現れにくい難しい仕事と向き合う

 

 河南さんに栄養士として、プロスポーツビジネスに携わることの難しさを尋ねてみた。

「結果というか成果が解り難いということだと思います。数字でそうしたものが現れるわけではありませんから。栄養だけで成果を挙げることはありませんし、逆に体調が悪くなったとしても栄養面だけに問題があるわけでもありません。その解り難いという事実が難しさだと思います。それでも自分が普段接している選手が、トップカテゴリで活躍している姿を見ると、素直に嬉しいですから、そこがやりがいなのかもしれませんね」

 

 プロアスリートと接する中での難しさについても尋ねてみた。

「どうしても男性が多い世界なので、しっかりと一線を引くようには最初から意識していました。栄養士という立場で言うと、食事というのがプライベートなものであるだけに、ある程度心を開いてもらう難しさはあります。私も全ての選手の、全ての食事を管理できるわけではありません。補食などは、当然私の知らないところで摂っていますから、そうしたことまで正直に話してもらえるようになるためには、相当な信頼関係を築かなければなりません。しかしその信頼関係というのは、ちょっと間違えるとなあなあになってしまいます。その意味では、選手との距離感を測りながら、適当なところを保つというのが難しさかもしれませんね」

 

 様々な競技のアスリートと接してきた河南さんだが、個人競技とチームスポーツの違いも肌で感じている。浅田真央選手であれば、浅田選手1人に対して様々な分野の専門家がサポートしているため、河南さんと浅田選手の関係は常に1対1だった。しかしオリックス・バファローズであれば、河南さん1人に対して、70名からの選手が向き合っている。だからこそ平等に接するという意識が大事になると、河南さんは考えている。

平等には接するが、その付き合い方は選手の個性に合わせる必要があるという。

「この選手はがんがん言っても大丈夫とか、逆にこの選手には言い過ぎると耳を閉じてしまうという具合に、選手の性格を見分けるようにはしています。過去にはそうした選手との向き合い方で失敗したこともありますので、そうした経験を積み重ねてきた中で、自分なりに選手の個性はしっかりとつかもうと意識しています」

 

 

成功も失敗もいろいろな経験の積み重ねが大切

 

 スポーツビジネスを志す人の数は、増加の一途を辿っている。様々な大学や専門学校で、そうしたコースも増えている。かつての河南さんのように、何らかの形でアスリートをサポートしたいと考えている学生も多い。そんな学生や子どもたちへのアドバイスを求めた。

「色々なことを経験しておくことかなと思います。好きなことを突き詰めることも大切ですが、引き出しの数が多い方が、絶対にいい仕事ができるようになります。そのためにも、様々な経験をして、それを自分の中に蓄積していくこと。成功も失敗も含め、たくさん引き出しを持っておくことかなと思います」

自転車競技、バレーボール、ラグビー、フィギュアスケートなど様々な競技のアスリートと向き合ってきた河南さんならではのアドバイスといえるだろう。そうした経験が、今、オリックス・バファローズの選手たちと接する中で、確実にプラスになっていると河南さんは語る。様々な選手と接することで、選手のタイプを判別する能力も養われ、多種の競技と接することで得た知識を、場面に応じて活用することができているということだろう。

「スポーツビジネスに携わる上で大事なのは、コミュニケーション能力だと思います。こちらの伝えたいことを、確実にアスリートに届ける。それがなければ、どれだけの知識を持っていても、選手のために活かすことはできませんから」

 

 

子どもの栄養摂取は工夫して

 

 好き嫌いのある子どもに対しては、どのようにして克服させたらよいのか、家庭でできる工夫はないか河南さんに尋ねてみた。

「まずは嫌いなものは小さく切ってあげてください。嫌いなものが目に付く形で入っていると、それだけで食べる意欲が損なわれてしまいます。また、味が苦手という場合は、その味がわからなくなるような味付けにするのも良いでしょう。プロの選手でも、人間ですから当然好き嫌いはあります。苦手な野菜を食べる時はマヨネーズをかけている選手もいます。子どもに人気があるマヨネーズやケチャップで味付けしてあげるのも、有効です」

 

夏本番を迎え、スポーツを楽しんでいる子どもの食事で悩んでいる保護者へのアドバイスも求めた。

「ありすぎるんですけどね(笑)、一つは小分けに食べるということです。暑くなると、どうしても食欲は落ちます。そこで無理に食べさせるのではなく、少しずつ食べさせるようにすると、子どももストレスなく食べられるのかなと思います。保護者の方は、身体を大きくするために『食べなさい』と言ってしまいがちですが、それによって子どもが食事そのものがストレスになってしまうケースも少なくありません。ですから一回の食事を減らして、おやつにお菓子ではなくヨーグルトやおにぎりなどを食べさせてあげることで、必要な栄養を無理なく摂れるようにしてあげてほしいですね」

「暑いときに、冷たいものを食べて身体を中から冷やすというのは、決して悪いことではありません。しかしそこで麺類を中心にしてしまうと、噛むことが少なくなってしまいます。噛むことで消化酵素を出し、それによって胃を動かすという効果もあります。あまり噛まずにいると、胃の動きが悪くなり、消化不良を起こす要因になりますので、しっかりと噛むということも意識してほしいと思います」

 

 かつての「野球大好き女子」だった河南さんだが、実際にプロアスリートと接する中で、新たな魅力を発見することができたという。

「ファンの立場で見るスポーツ選手は、華やかな存在ですが、その裏側には大変な努力があるということが判って、さらに魅力が増しました。努力しているだろうとは思っていましたが、それは想像をはるかに超えるものでした。そうした努力の一端を見ることで、愛情が増したとも思いますし、リスペクトする気持ちが高まりました。そして何より昔、憧れて見ていた野球選手は、だいぶ大人でしたが、時間が経ち、今の若い選手にはお母さんのような視点を向けています(笑)。それだけでも変わりました(爆笑)」

 

 

 常に笑顔を絶やさず、穏やかな表情で話してくれた河南さんに胃袋を管理された猛牛軍団が、魅力的な野球で頂点に立つ日はそう遠いことではないだろう。

 

(了)

河南 こころ(かわなみ こころ)
管理栄養士・CSCSNSCA認定ストレングス&コンディショニングスペシャリスト)。兵庫県出身。
自転車ロードレースのほか、ラグビー、バレーボール、フィギュアスケート等、様々なアスリートを栄養面でサポートするしてきた。
現在はオリックス・バファローズ管理栄養士として活躍中。

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