大阪芸大×舞洲プロジェクト~2019年度デザインプロジェクト

 2019年10月4日、大阪芸術大学(大阪府南河内郡河南町)にて「2019年度デザインプロジェクト」の発表が行われた。これは同大の芸術学部デザイン学科の科目のひとつで、同学科にある様々なコースの壁を取り払い、複数の学生が共同で、地域や企業といった産官とコラボレートしてものづくりに挑戦するというもの。複数のプロジェクトが存在しているが、そのうちの1つ、宮本知教授(大阪芸術大学芸術学部デザイン学科)が担当するプロジェクトが、コラボレーションの相手として選んだのが「舞洲プロジェクト」だ。

 

 宮本教授の下に12名の学生が集い、5月のスタートから半年が経過し、その経過報告も含めての、今回の発表だった。当日発表を行った学生は8名。それぞれのプレゼンテーションに対して、大阪市、大阪エヴェッサ、オリックス・バファローズ、セレッソ大阪からそれぞれ参加した舞洲プロジェクトのメンバーが意見を述べるというスタイルで、進行された。

 

宮本知大阪芸術大学教授

 

 最初に発表を行ったのは岩井一輝くん(グラフィックデザインコース)。テーマは「舞洲×eSports」。日本では「テレビゲーム」といった未だ見方をされることも多い分野だが、世界レベルで見たときには競技人口1億人を超える巨大なマーケットとなっている。この背景を説明した後、日本での競技人口(390万人)やそれを視聴するマーケット(160万人)を強調し、その成長の可能性を訴えた。

そしてBリーグ、プロ野球、Jリーグといった、日本の3大人気スポーツが集まる舞洲でその大会を実施することで、舞洲の持つ「スポーツ」のイメージを拡大し、ゆくゆくは舞洲をeSportsのメッカとしていくというものだった。

 昨今eSportsの大会は様々なメディアで報道されるようになった。オリックス・バファローズの小浜裕一氏は「プロ野球界でもeSportsには注目している。今年の11月からは『eBASEBALL パワプロ・プロリーグ』、2020年には『NPB eスポーツシリーズ スプラトゥーン2 2020』といった大会の実施が決まっており、この分野のもつ成長力には期待している」と、その着想が間違っていないことを認めた。

 

岩井一輝くん

 

 続いて発表を行ったのは尾久司くん(空間デザインコース)。尾久くんは舞洲のロケーションに着目したテーマを設定した。それは「舞洲を新たなスポットで活性化」というものだ。ご存知のように舞洲は「日本の夕陽百選」にも選ばれるほど、ロケーションには恵まれている。夕陽だけではなく、夜には大阪湾の夜景が一望できる『隠れたフォトスポット』ともいえる。尾久くんはここに着目した。フォトスポットを探すという目的を軸とすることで、舞島を回遊する人を増やそうというのだ。舞洲内にフォトスポットを設定し、そのことだけを告知することで、「探す楽しみ」をそこに付加しようという狙いだ。そこで撮影した写真をSNSへの投稿を促すことで、撮影者を広告塔に転化することができるのではないかという提案を行った。これに対して大阪エヴェッサの城秀樹氏は「スポーツにフォーカスされることの多い舞洲だが、『インスタ映え』する土地であることに着目した点は面白い」と評価していた。

 

尾久司くん

 

 3人目の発表者は近藤優光くん(グラフィックデザインコース)。自身が水泳を続けており、スポーツジムのインストラクターのアルバイトもしているという近藤くんの提案は「舞島タラソテラピー」だった。タラソテラピーとは、海水に含まれるミネラルをはじめとした海の資源を活用し、健康を増進させるというもので、海洋療法とも呼ばれるものだ。フランスなどでは広く活用されているようだが、近藤くんは、舞洲が海に囲まれているという立地上の特性に注目した。その上で、海水を引き込むことで、負担の少ない運動が可能となり、リラックス効果や疲労回復、さらには美容効果のある施設が運営できるのではないかという提案を行った。これに対し大阪市の榎木谷達人氏は「舞洲にはアミティ舞洲という、障がい者運動施設がある。海水療法という視座を確立できれば、そうした施設の活用にもつながるのではないか」と、この企画にはまだ広がりがあることを示唆した。

 

近藤優光くん

 

 続いて発表を行ったのは貞方勇人くん(空間デザインコース)。貞方くんの提案は「自分だけの花畑」というもの。「舞洲に自分だけの花畑を持つ」というテーマのこの企画は、利用者自身が舞洲の名所を作るという性質のものだった。具体的には舞洲の中に花畑スペースを作り、そこを細かく区割り販売し、そこで好きな花を育ててもらおうというものだった。貞方くんは「全国に花畑はあるが、その大半は花の種類や規模での差別化を図っている。この企画では『シーン』に拘ってみたかった」と、その企画意図を語った。ここでいうシーンとは、花を渡すシチュエーションに近いようだった。自分で育てた花を夫婦や恋人、友人で送り合うことで、花を送る風習が欧米に比べてまだ少ない日本に、舞洲から新しい習慣を発信したいという狙いもあるようだった。

 舞洲の名物でもあるネモフィラ祭りに続く、新たな名物が誕生する夢を提案した貞方くんには、舞洲部プロジェクトの面々からも、大きな拍手が送られていた。

 

貞方勇人くん

 

 続いてプレゼンテーションの舞台に上がった西岡和可子さん(グラフィックデザインコース)の提案は、舞洲に新たな遊びを取り入れるというもの。「パカブ」という、フランス ブルターニュ地方発祥の遊びの導入が、今回の西岡さんの提案だった。小さな島で生まれたというこの遊びは、木の上に張り巡らされた網の上で、思いおもいのスポーツを楽しむというものであるという。そもそもは漁で使用される網を高所に張り、その上で子供を遊ばせたところ大好評であり、それが各地へ伝播していったようだ。現在は漁で使用する網ではなく、強度を増した素材で作られた網を使用しており、高さも3m~8mで設置することができるようになっているという。そこではサッカーやバスケットボールなど、思い思いのスポーツを楽しむことが可能であり、転んでもケガをする心配がない、さらに不安定な網の上で動くことで、体幹を鍛えることもできる。日本にも一ヶ所、パカブを楽しめる場所はあり、加えて人気ユーチューバーが紹介したこともあり、注目され始めているがるが、まだ知名度が低いのも事実だ。それだけに早い段階で舞洲に導入することで、知名度の点で先行者利益を得ることもできるという。

 この提案に対し、セレッソ大阪の長谷川顕氏は「パカブという名前の持つ楽しそうなイメージが、子どもには受けるのではないか」という見方を示した。新しい遊びを提供するという、実に興味深い提案だった。

 

西岡和可子さん

 

 6番目のプレゼンテーションを行ったのは西田烈くん(空間デザインコース)。タイトルは「MAISHIMA E – GP」。内容は電気自動車・バイクによる公道レースを舞洲で行うというもの。週末の3日間を使用し、金曜日にフリー走行、土曜日はプロクラスの予選、日曜日にプロクラスとジェントルマン(=アマチュア)の決勝を行うという、なかなかに本格的な企画だった。電気自動車の比率が増加することが予想されている中で、こうしたレースを舞洲で行うことができれば、舞洲への注目が増すことは間違いない。西田くんによれば、舞洲の道路はタイトなコーナーや長いストレートもあり、レースに適しているという。実際に実施するとなると、スポンサー集めや警察など所轄機関とのすり合わせなど、膨大な手間を要するが、夢のある企画であることは間違いない。舞洲プロジェクトのメンバーからも、企画そのものの面白さやダイナミックさを高く評価する声が多かった。

 

西田烈くん

 

 続いてプレゼンテーションを行ったのは藤原まりなさん(デジタルメディアコース)。タイトルは「ドローンレースという競技を提案する」というユニークなものだった。内容はそのままズバリのドローンレースを舞洲で開催するというものだった。舞洲には大阪シティ信金スタジアムなど、区画されたスペースがあるため、こうしたレースを行うには適しているという。4年ほど前から北米やヨーロッパなどではイベントとして盛んに行われており、最近では日本国内でも開催されることが増えているドローンレースだが、パイロット(操縦者)の視点を動画で配信することが可能だ。そのため既存のレースの模様は、ユーチューブなどの動画配信サイトでは定期的に配信されており、一定数以上の視聴数を獲得している。ターゲットとしてはJDRA(一般社団法人日本ドローンレース協会)に所属しているドローン操作者、及びそれに興味のある人ということになるようだ。舞洲プロジェクトのメンバーからは、既にドローンレースが開催されているため、コースの工夫やレース参加資格の緩和など、独自の色を求める声が挙がったが、時代の潮流を捉えていると評価する声が多かった。

 

藤原まりなさん

 

 この被災後の提案者は松川夏葉さん(プロダクトデザインコース)。「Put Pic 舞洲から世界のこどもたちに愛を」というタイトルの提案だったが、その内容は実にユニークなものだった。松川さんは舞洲内に多くの飲料自動販売機があり、ペットボトルがゴミ箱に入りきらないほど消費されている現状に注目した。そこにペットボトルのキャップを集め、ユニセフを通すことで、ワクチンを作る資金となる仕組みがあることを組み合わせた。そしてペットボトルのキャップで巨大な絵やモニュメントを作り、完成後はそれを一定期間展示した後、ワクチンの資金へと還流するというもの。完成させるべき絵やモニュメントは、その元となるものを制作、舞洲内のスポーツ施設近くに設置し、飲料を飲んだ利用者が、ごみを捨てる際に、ペットボトルキャップを指定の箇所に嵌め込んでいく。この行為が、Put(置く)ことで絵(Picture)を完成させるという意味で「Put Pic」というタイトルがつけられていた。どのようにペットボトルキャップをはめ込んでいくかということも図解されており、非常にユニークかつわかりやすい提案だった。

この提案には小浜氏が「現実性が高く、社会的意義も伴っており、非常に良く考えられている」と評価したように、他の舞洲プロジェクトのメンバーからも高い評価が与えられていた。

 

松川夏葉さん

 

 今回の提案に関して指導者である宮本教授は、「学生の発想を進める上でも、普段ビジネスの現場にいる人の声は重要なファクター。今回、そうした声を聞けたことは、今後、自分の提案をブラッシュアップしていく上で大きな意味を持っている」と、この日の授業を総括した。

 大阪市の榎木谷氏からは「芸大生らしいユニークな提案が多く、実に面白かった。ビジネスの現場では気づかない点も多く、さらに芸大生の感性も感じられ、ここから舞洲を盛り上げていく企画が生まれることを期待している」と、学生たちの労をねぎらいながらも、今後への期待を述べた。

 

 本項では、今後も大阪芸術大学とのコラボレーションに注目していく予定だ。

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