セレッソ大阪の魅力を、もっと広く伝えたい

(左から)田中 葵衣さん  島田 皓介さん

 

 昨季のJ1リーグでは5位となったセレッソ大阪。名将ロティーナ監督のもとでJ1リーグ最少失点タイ記録を残すなど、2020年シーズンへの期待が高まる結果となった。そのセレッソ大阪をマーケティングの分野で支えている島田皓介(しまだ・こうすけ)さんと田中葵衣(たなか・あおい)さんに、2019シーズンを振り返ってもらいつつ、新しいシーズンへの思いを聞いた。

 


 

Jリーグにはもっと可能性がある

 

 島田さんがセレッソ大阪のスタッフとなったのは、2019シーズン真っ只中の7月。過去に別の会社でスポーツマーケティングに携わった経験を持ってセレッソ大阪へやってきた。しかし高校時代まで野球をプレーしていた島田さんにとっては、サッカー自体が遠い存在だった。

「小学生の頃、FC東京の試合を見に行った記憶はありますが、ルーカス選手がいたかなという程度の曖昧な記憶しかありません。当時は野球一筋だったため、サッカーについては全くと言っていいほど、知識も興味も持っていませんでした。野球を辞めてからも、サッカーと言えば日本代表の試合をテレビで観戦する程度でした。ですからJリーグについての知識も殆どない状態での『セレッソ入り』でした」

 そんな島田さんにとって、中から体感するJリーグは衝撃的だった。

「最初に試合を見た感想は、素直に『面白い』というものでした。90分間という試合時間は、野球に比べれば短いですが、その分スピード感もあり、サポーターの方の興奮もそこに集約されているため、その迫力に圧倒されました」

Jリーグのサッカーはもっと流行ってもいいはずだ、そう思ったという島田さんはファンクラブ管理との兼任で、デジタルマーケティングに携わるようになった。メール配信などマーケティングオートメーションの運用をメインとして、ホームページに対するアクションなどをチェックしながら、状況に応じて広告効果の最大化や効率化を図っている。

 

 田中さんも、島田さんと同じく2019シーズンの途中入社組だ。過去に他のJリーグクラブに携わった経験があった田中さんではあるが、セレッソ大阪の独自のカラーには好感を持つと同時に、驚きもあったという。

「以前、横浜F・マリノスに携わっていたことがあるのですが、クラブによって社風というか、雰囲気がこうも違うものかと驚きました。うまく言えないのですが、マリノスは高貴というか、いい意味でプライドの高さを持っているクラブだと感じていました。それはJリーグ創設以前の強豪だった日産自動車サッカー部の流れを汲んでいるという歴史や、Jリーグ創設時から、一度も降格することなくJ1リーグの中で戦い続け、数々のタイトルを獲得してきたという実績が作り出しているものだと思います。それに対してセレッソ大阪は、『一体感』が強いクラブだと感じました。土着という言葉が適切かどうかは解りませんが、みんなでクラブの歴史を作っていこうという雰囲気が感じられ、それがクラブの明るいイメージにもつながっているのだと思います」

 セレッソの一員となった今、田中さんはJリーグワンタッチパス(Jリーグ全試合対象観戦記録システム)を使っての来場者満足度の向上に取り組んでいる。ワンタッチパスの管理を行っている関係上、直接サポーターと触れ合うことも多い。そこで得られた情報をクラブ内にフィードバックし、新たな企画立案につなげていくのも、田中さんの大事な仕事だ。

 

的確なアプローチで潜在的な需要をもっと掘り起こしたい

 

 そんな二人にとって、2019シーズンはセレッソ大阪での初年度ではあったが、達成感を得られることも多かったという。

島田さんにとって象徴的な出来事は、リーグ最終節となった清水エスパルス戦だったという。

試合1週間前から30通を超えるメールを準備、ターゲットを細かく区切り、それぞれに対して異なるアプローチを試みる。そしてその反響を見ながら、さらに新しいメールでアプローチしていく。そんな作業を繰り返したことで、1週間でメール効果による発券数を3,500以上増やすことに成功したのだ。

「自分の一人の力でないことはもちろんですが、実際にそれまでチケットを買っていなかった3,000人以上の方が、メールをきっかけにチケットを購入してくれたという結果は、素直に嬉しいと思えました。セレッソ大阪というクラブのブランド力、シーズン終盤まで上位争いに食い込んだチームの好成績、そして昨年以前から地道にセールスプロモーションを続けてきた人たちの力があればこその結果ですが、サッカーチームの運営に携わって数か月で、結果がこのように数字に表れたことで、努力してきた方向性が間違っていなかったと裏付けられたことに安心しました。同時に、今年以降に注力すべき方向性も見えたような気がしました」

 島田さんによれば、このように結果が残せるようになった裏側には、デジタルツールを利用したCRM(顧客関係管理)がうまく回り始めたことにあるという。Jリーグを挙げて取り組んでいる「顧客のデータ化」が年月を重ねたことで蓄積され、精度が上がったのだ。その結果として、メール送信に対するチケットの販売実績が数値化され、より効率的なメール配信が可能になったということだろう。

昨シーズンのセレッソ大阪の1試合平均入場者数は21,518人。2018シーズンの18,811から20%近い伸びを示した。そしてこの平均入場者数は、クラブ史上最多だった2014シーズンに迫るものだった。

「私が入る前の話ですが、2014年は世界的スター選手であるフォルラン選手が加入した効果も大きかったと聞いています。昨年はそうした特定の選手の人気に頼るのではなく、多くの方にセレッソ大阪の魅力に触れる機会を多く提示することで、スタジアム来場につなげていった結果だけに、継続性のある、価値があるものだったと思っています」

 昨シーズン、セレッソ大阪のホーム開幕戦の対戦相手はヴィッセル神戸。イニエスタ選手を中心とする、Jリーグきってのスター軍団相手の試合ということもあり、セレッソ大阪のサポーター以外に、ライトなサッカーファンも多くスタジアムに詰めかけた。その人たちを1回限りに終わらせないため、島田さんたちの奮闘が続いた。

「神戸戦にきたお客様には、イニエスタ選手と同じく元スペイン代表のトーレス選手が在籍していたサガン鳥栖との試合をお勧めするなど、お客様のニーズに合わせた提案を続けてきたつもりです。その結果、お客様当たりの平均来場回数も伸ばすことができました。セレッソ大阪を好きになってもらうためには、セレッソ大阪に触れる機会を増やしていく。地道かもしれませんが、こうした努力を続けることが大事なのだと思います」

 

 

 手ごたえを感じたという点では、田中さんも同様だった。サポーターの声を直接聞く機会も多い田中さんにとって、自分と同じ若い女性をターゲットとした企画を立てることは、新しいファン層を拡大していく上で大きな意味があるものだった。

「セレッソのサポーターに対しては、『セレ女』という言葉が象徴するように、女性サポーターが多いというイメージがあると思います。しかし実態としては、Jリーグ平均よりは多いですが、それほど傑出して多いというほどではありません。女性サポーターの割合は30%から40%というところだと思います。しかし潜在的な需要を掘り起こすことができれば、成長の余地が大いに残されている部分でもあると思います。そのためにも、これまで以上に女性のニーズを正確に把握し、それを企画に活かしていくことが必要です。その中で昨シーズンはタレントのローランドさんをスタジアムに招くことができ、注目を集めることができました。こうした企画ができたということは、今後に向けての自信にもなりました」 

 

 島田さん、田中さんともに昨シーズンの経験から、今シーズンはさらなる数字を残したいと腕を撫す。

 島田さんは「あくまでも個人的な目標」と前置きした上で、1試合平均来場者25,000人に挑戦してみたいと語る。

「そのためにはこれまで以上に、細かなセグメントが大事になります。選手、試合、グッズ、グルメなど、細かなジャンルごとに、お客様の興味を正確に見極め、個々に合わせてアプローチしていくことができれば、まだまだ多くの方に見ていただくことは可能だと考えています。正しく手を動かせば、お客様に反応していただけるということは、昨シーズンで分かりましたから、今年はさらに積極的に取り組んでみたいと思っています」

 

 田中さんも、島田さん同様に昨季の仕事に手ごたえを感じているが、同時に課題も多く見つかったと語る。

「セレッソサポーターの方と話をしていると『ファミリー』という言葉が、キーワードとして出てくることが多いことに気付きました。これは森島(寛晃)社長もよく使う言葉なので、サポーターの方に浸透しているのかもしれませんが、『仲間』でもなく、『友達』でもなく、『ファミリー』という感覚がいいなと思いました。その言葉には、セレッソ大阪というクラブを媒介として、横につながっていくという広がりを感じます。そうしたサポーターの方の感覚が解っていたのであれば、クラブとサポーターの距離感をもっと縮めることができたのではないかと思っています。サポーターの方の多くが、そうした関係を望んでいるのであれば、今年はそこにトライしてみたいと思っています」

 

舞洲にスポーツチームが集まっているメリットを活かしたい

 

 最後に舞洲に対する思いを聞いてみた。

「オリックス・バファローズに大阪エヴェッサ、そしてセレッソ大阪という3つのプロスポーツチームが、近い距離に本拠地を置いているというのは面白いと思います。こうした距離感にあることを考えれば、そこに面白いコラボレーションが生まれる可能性は高いのかなと思います」(島田さん)

「大阪エヴェッサさんの試合前の演出などには、とても興味があります。JリーグとBリーグは構造が似ている中で、後発のBリーグは新しいことに積極的にチャレンジしているように見えます。ですから、そこには私たちが参考にできることが多くあるように気がします。同時にオリックス・バファローズさんは、プロ野球という、80年以上の歴史があり、最も多くの人を動員する人気スポーツですから、やはり私たちが見習うべき点は多いように思います」(田中さん) 

 

 島田さんと田中さんは、オリックス・バファローズのファンや大阪エヴェッサのブースターに「大阪ダービー」をぜひ見てほしいと口を揃える。「サッカーを知らなくても、試合前からの雰囲気だけで楽しめると思います」(田中さん)というセレッソ大阪とガンバ大阪の戦いは「大阪を代表するイベントと言っても過言でない」(島田さん)雰囲気にあふれている。

Jリーグにはまだまだ潜在力があり、セレッソサポーターの予備軍も大勢いると語る二人が、2020年のセレッソ大阪を盛り上げてくれることは間違いなさそうだ。

 

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